A DAY WITH Y
Vol.9 平山昌尚
アーティスト
すっと手を伸ばしたとき、そこにある服。
なんてことない“普通の服”だけど、
なぜかいつも着てしまう。
〈Y〉が提案するのは、そんな服です。
日常にそっと寄り添いながら、
そのひとの個性と結びつく。
じゃあ、このブランドの服をまとうのは
どんなひとなのか?
デザイナー・田口令子と、
アドバイザー・金子恵治氏が、
〈Y〉を着るひとのもとを訪ねます。
じゃあ、このブランドの服をまとうのはどんなひとなのか?
デザイナー・田口令子と、アドバイザー・金子恵治氏が、
〈Y〉を着るひとのもとを訪ねます。
アンリ・マティスの人生と、
自分を重ねる。
ー最近、高松に移住されたそうですね。
平山:環境を変えて東京とは違うところで生活してみたい気持ちがあったんです。親も歳だし、ぼくも近くにいたほうがいいだろうということで移住を決めました。
ー高松での生活はどうですか?
平山:まだ観光気分が抜けないですね(笑)。地元の人は並ぶから行かない店も、とりあえず行って楽しんでます。
田口:一回は行って、実際にどんなもんかチェックしたいですよね(笑)。
ーお子さんも生まれましたよね。心境の変化とか、ありますか?
平山:あると思います。でも、それがどんな変化なのか、まだわからないというのが正直なところですね。
ー平山さんの絵にも変化はあるんですか?
平山:あります。いままで描く時間は短かったけど、子育てでよりタイトになりました。30分かけてたところ、いまは10分で描いてます。また、娘がはじめてクシャクシャにした紙とか、作ったり書いたものを保管しています。それらも作品に繋がると思い残しています。
田口:時間が短い中での作品を完成させるタイミングって、すごく難しそうですよね。付け足すことはいくらでもできるじゃないですか。
平山:足りないかなと思うときは結構あるんですけど、制約があることによって区切りがつけられるから、いまはそれを受け入れてますね。
金子:それによってまた違うものが生まれるわけですよね。
平山:そうですね。アンリ・マティスという好きな画家がいて、彼はキャリアの中後期にパリからニースへ移住しました。そうした彼の人生と、自分を重ねてみたりして。
ーマティスは都会であるパリから穏やかな気候のニースに移ることによって、作風が変わったんですよね。
田口:瀬戸内海は温暖な南仏に近い気候と言われているし、そこも重なる部分がありそうですね。
平山:ニースへ移住したマティスの足跡を辿って制作した作品があるんですよ。それを東京の「αM」で展示しました。その後パリにある「イヴォン・ランベール」という老舗のギャラリーでも縁あって展示することになって。
田口:そのときにつくったZINEを、私がたまたまパリで見つけるっていう。ギャラリーに勤めているブルーノさんという方がいて、「この人の作品、いいね」って話したら、平山さんと繋いでくれたんです。
シンプルで要素が少ないのに、
平山さんだってわかる。
ーそんな縁がきっかけで、今回〈Y〉と平山さんのコラボTシャツをつくったんですよね。
平山:きっかけがマティスだったので、ニースの窓の風景を描きました。彼はニースへ行ってから窓の絵をよく描いているんです。内と外の関係を作品のテーマにしているらしくて。
ーでも、どうしてそんなにマティスに惹かれるんですか?
平山:マティスって絵画だけじゃなくて、切り絵とか、デザイン的なこともよくやっている作家なんです。
田口:ちょっとグラフィック的な要素も感じますね。
平山:ぼく自身も絵だけではなくて、今回のようにファッションブランドとコラボしたり、プロダクトも出しています。マティスはそのパイオニアなんじゃないかって思うんです。
田口:たしかにあの時代に切り絵をやっている人っていなかったですよね。絵画もちょっとグラフィックっぽさを感じるし。
ー今回の作品は、窓枠に椰子の木と、魚、ヨット、そして人が描かれています。
田口:マティスが過ごしたホテルの窓の風景を描いてくれたんですよね。
平山:ヨットが出てきたのは〈Y〉の頭文字をもじっているんです(笑)。
金子:平山さんの線って、すごく独特ですよね。
平山:なんでしょうね、自分でもよくわからないんですよ。描いたものを良くしたいと思って描き直しても、やっぱり最初に戻るんです。
田口:すごくシンプルで要素が少ないのに、平山さんだってわかるのがすごいというか。
ーどんどん削ぎ落としていくようなイメージですか?
平山:たしかに「削ぎ落とすとどうなるかな?」って、試したことはあるんです。それを続けていると、もうちょっと足してみたいなって思ったり。それの繰り返しというか。
金子:自分の中にルールとかって、あったりするんですか?
平山:A4の紙にしか描かないとかですかね。大きいと扱いが大変だからっていう理由なんですけど(笑)。
金子:ストレスがないようにやっていった結果なんですね。でも、それによって純度の高い作品が生まれるという解釈もできます。自分の中で徹底して守るものがあって、それが魅力につながっているのかな。
田口:それを作品のために狙ってやっているという感じがまったくしない。そこが平山さんのいいところのような気がします。いい作品をつくるためにというよりは、それが自分にとってラクだからっていう理由じゃないですか。
平山:絵もずっと風呂場の前で描いているんですよ。脱衣所で。
ー汚れるからってことですか?
平山:筆がすぐに洗えるから。
金子:やっぱりそういうことなんだ(笑)。
田口:今回の作品はいろんなこだわりがあって、「WINDOW」と「PEOPLE」というテーマでそれぞれ描いてもらったんです。ユニセックスで着られることや、サステナブルな素材、日本製であることなど、いろんな要素をお伝えして、それを作品にしてもらったんです。
平山:いろんなこだわりで作られて、それをいろんな人が着るイメージですね。多様性というか。
田口:打ち合わせのとき、「“人”っていう字を逆さにすると〈Y〉になる」って話してましたよね。
ーなるほど。そういうギミックがあったわけですね。
田口:それがランダムに配置されて、すごくグラフィカルな構図で新鮮ですね。
ーこちらもA4の紙に描いたんですか?
平山:こっちはコンピューターを使いました。紙に描いてもPCで描いても、ぼくの場合はあまり差がなくて。どっちも楽しいから両方使ってますね。PCは原画はないんですけど、Tシャツになったときに形になるのがおもしろいじゃないですか。
着るとハマっちゃうかも。
買い換える必要がなくなったら
最高。
ー〈Y〉の服にはどんな印象を抱きましたか?
平山:田口さんと金子さんがつくる服って、すごくシンプルじゃないですか。そこが自分にはすごく合っている気がします。
田口:〈Y〉は金子さんがアドバイザーで、いろんな古着やモチーフとなる服を提案してくれるんです。そこから生地だったり、サイズのバランスを見直して、私がデザインしていて。すごくシンプルな服なんだけど、つくり方は独特なんですよ。
平山:コラボのTシャツはネックが詰まってていい感じでしたね。生地も肌触りがよくて。
田口:〈Y〉にはオーガニックコットンでつくったTシャツがあるんですけど、それにプリントをするのはちょっと違うなと思って。今回は特別にいちからパターンを起こしたボディを使ってます。生地もオーガニックコットンで編んで、高密度でハリのある仕様にしたんです。
平山:フリースもすごくよかったですね。暖かいし、柔らかくて着心地もいいです。
ー平山さんって上着とか着るんですか?
平山:寒い時はパーカーを2枚重ねてますね。暖かいんだけど、ゴワゴワして着心地が悪いんです。だから〈Y〉のフリース着させてもらって、めちゃくちゃいいなって思いました。
ー着心地がいい服を買おうと思わないんですか?
平山:そこまでいかないんですよ。いまあるやつでどうにかしようって思っちゃう。高松の冬はたぶん東京と同じくらいだと思うんですけど、本当に寒いときは外に出ないですね。
田口:ミニマリストの発想ですね。「足を知る」というか。
平山:ぼくは同じ服を何着も持っててそれを着回してます。コーディネートを考えるのが面倒なので…。
金子:いつも買うワードローブの服に〈Y〉を忍ばせたいですね(笑)。
田口:〈Y〉もシーズン毎に入れ替えるアイテムもあるけど、裏毛のスウェットやTシャツはずっと定番で展開しているんですよ。
金子:普通の半袖Tシャツでも原料がいいので、ヨレてきたあたりから良さが出てくる。一度着てもらえれば、その違いは感じてもらえると思います。一般的な服と大きな違いはないように見えるんですけど、着続けていくとだんだん気持ちよくなってくる。そこも〈Y〉の魅力かなと思います。
平山:おもしろいですね。
田口:洗濯を繰り返すことによって色落ちをしたり、表情も変わってきて、それが持ち主に馴染むような作り方をしているんです。
金子:僕は古着が好きなんですけど、何十年も前の服でも、いま見て「いいな」と思えるものがある。当時はそれが特別だったわけじゃなくて、ごく普通に作られていたんです。でもいまは、普通に作られている服がどこか消耗品っぽくなっている気がします。〈Y〉が目指しているのも、良い時代の普通の服なんです。
平山:着るとハマっちゃうかもですね。ラクだし、買い換える必要がないってなったら最高ですね。
ー最後に、平山さんの今後の目標についても教えてください。
平山:娘が生まれたことによって、自分の活動にも大きな影響があると思います。目標かどうかはわからないですけど、ちゃんと健康でいようと思っていますね。
田口:なにかやってみたいこと、チャレンジしてみたいことは?
平山:マティスがステンドグラスをつくってたから、ぼくもやってみたいなと思ったり。納得のいく作品をつくって、また展示ができたらいいなと思います。それの繰り返しですね。

