A DAY WITH Y

Vol.8 西山寛紀

イラストレーター

すっと手を伸ばしたとき、そこにある服。
なんてことない“普通の服”だけど、
なぜかいつも着てしまう。

〈Y〉が提案するのは、そんな服です。
日常にそっと寄り添いながら、
そのひとの個性と結びつく。

じゃあ、このブランドの服をまとうのは
どんなひとなのか?

デザイナー・田口令子と、
アドバイザー・金子恵治氏が、
〈Y〉を着るひとのもとを訪ねます。

じゃあ、このブランドの服をまとうのはどんなひとなのか?
デザイナー・田口令子と、アドバイザー・金子恵治氏が、
〈Y〉を着るひとのもとを訪ねます。

制約を設けることで、
工夫が生まれる。

ー西山さんがイラストレーターを志したきっかけを教えてください。

西山:高校の進路相談のときに、将来何をしようか考えたんです。音楽が好きなので、もともとはライターのように文章を“書く”仕事でミュージシャンにインタビューをするのもいいなと思っていて。でも好きなバンドを聴き込んでいるうちに、自分自身の表現として絵を“描く”仕事でプロフェッショナルな人たちと関わりたいと思うようになりました。そこから漠然とイラストレーターとして、自分の表現を模索したいと考えるようになったんです。

ーそれで多摩美術大学に入学したわけですね。

西山:そうですね。大学ではグラフィックデザインを学びました。その中で自分自身の表現を考えるようになったのと、その表現を通して世の中とコミュニケーションを取ったり、セッションをしたいと思うようになったんです。好きなミュージシャンに自分の絵を送ったり、社会人になった後もイラストレーションの登竜門になるコンペにも応募して入選入賞する中で、徐々に仕事や個展開催のオファーをいただくようになったんです。

田口:西山さんの作品は平面的なレイヤーを駆使していますよね。そうした作風はどのようにして生まれたんですか?

西山:大学3年のときに佐藤晃一さんという日本を代表するグラフィックデザイナーの講義を受講しました。それまでのぼくは、絵の具の質感やテクスチャーといった、絵画的な絵肌を追求していたんですよ。だけど「表面の味付けよりも、描いている内容にフォーカスしないと、絵が強くならない」と言われ、改めて自分の絵について根本から見つめることになりました。それからビジュアルを構成する上でもっともベーシックな要素である色と形にフォーカスするようになったんです。

金子:引き算の世界ですよね。

西山:そうですね。それがいちばんスタンダードで、なおかつ実力がわかりやすい。そういった普遍的な面で画力で力がつけば、汎用性も効くし、時代性も含めてタイムレスな絵が描けるのではないかと思ったんです。

ーだけど、そこには難しさもありますよね。

西山:制約を設けることで出来ないことが増えるんですけど、だからこそ工夫が生まれる。それが絵を強くするし、そこから自分の特性みたいものが滲み出る。ずっと見続けたい絵って、そうした根源的な部分の強さがあって、ぼくはそういう絵を描きたいんです。トレンドに飛びつくと、やっぱり一年後には古臭くなっていることが多いので。20世紀中期くらいの、グラフィックデザインやイラストレーションという仕事が今ほど細分化してなかった時代の作品を見ると、鑑賞者に対してテーマを押し付けないというか、考えさせる余地みたいなものを感じるんです。ぼくはそういう絵が好きなんですよ。

消費というよりも、
愛着をもって接せられるか。

ー田口さんと金子さんは、西山さんの作品を観て思うことはありますか?

田口:西山さんの表現を見ていると、色彩感覚の鋭さというか、色へのこだわりを強く感じるんです。打ち合わせのときに私物の小物類を拝見したんですけど、色のトーンがちゃんと合っててびっくりして。全部違うブランドだし、きっと購入した時期も違うんだけど、色のトーンが近しいものを選ばれているんですよね。しかもそれが落ち着きのあるイエローだったり、ちょっと渋い赤だったりして、作品に対するこだわりが、そうした私物にも現れているなって思いました。

西山:ありがとうございます。手に取ったときに「これいいな」っていうものは、なるべく購入するようにしていますね。たとえば黄色にしても、きっと昔もこういう色が使われていたんだろうなっていうものが好きですね。

金子:ちょっとヴィンテージっぽいというか、そんな感じの色味ですよね。

西山:クラシカルだったり、ヴィンテージだったり。たとえば時計でも、もともとはシルバーだった文字盤がほんのりと焼けて、シャンパンゴールドっぽい色に変わっているものに惹かれます。自分の作品を描くときにも、あまりフレッシュすぎない色使いというか、過去、現在、未来にも通用するようなトーンを探っていますね。普遍的な魅力を保ちつつ、新鮮に見えるようなバランスを意識しています。

田口:西山さんの作品って、色と色が響き合ってますよね。フレッシュではなくヴィンテージっぽい色選びが基本にありつつも、たとえばイエローとグリーンが隣り合ったときに生まれるハーモニーみたいなものも追求されているのかなって。それによって、鑑賞者の中に新しい感覚を生み出しているような気がするんです。〈Y〉はネイビーとホワイトの服しかないので、それが難しいんです。

ーネイビーとホワイトの展開しかなくても、モデルによってトーンを変えながらニュアンスをつくってますよね。

西山:今回着させてもらった服も、黒に近いネイビーなんですけど、柔らかさを感じます。これは特にアウターに合う色だと思います。他の色とも合わせやすいしカラーリングだなと思うので。

あと、〈Y〉はシルエットがすごくいいですよね。肩の落ち方とか、丈感、そういった部分がすごくちょうどいい。きっと生地の特徴なども含めて考えていらっしゃると思うんですけど、ひとが着用したときに初めて完成する服だなと思って。それでいてタイムレスな感覚もあって、いろいろと試行錯誤を重ねているのを感じるんです。そうした気遣いにぼくは惹かれますね。着るとそれがわかるんですよ。

田口:〈Y〉はユニセックスなので、いかに色んな人に着てもらうかが重要なんです。そういう意味ではファッションとは違う目線のプロダクトでもあって、つくり込みすぎない、ちょうどいいものを目指しましょうっていうのを金子さんといつも話していますね。

西山:そうそう、ファッションアイテムというよりも、プロダクトだなって思います。自分がモノを選ぶときの基準もまさにそこなんです。「これ、ずっと持っていられるかな?」って、子どもの頃からいつも考えていて。消費というよりも、愛着をもって接せられるかが重要だと思うんですよ。

金子:それ、めちゃくちゃいい話ですね。

西山:あと、〈Y〉の服はサステナブルな生地を使ってますよね。

ー持続可能性に関しても、もの選びの基準にしていらっしゃるんですか?

西山:基準のひとつではあります。気に入ったプロダクトが、実はリサイクル素材でできているとか、裏にストーリーがあると嬉しいですね。できれば環境負荷の少ないものを選びたい。それでいて長く使えるものがベターかなと思います。なので、ぼくにとって〈Y〉は本当にちょうどいいんです。普段使いしやすいし、かといって非日常的なシーン、たとえば自分の個展をやっているときにギャラリーで在廊するときとか、そういうときも気分が上がる服だと思います。日常とかけ離れた服を着るのが得意ではなくて、リラックスできて、なおかつテンションを引き締めてくれる。そういう服が自分のライフスタイルに合っているんです。

考える余地を残すようにしている。

ー西山さんは、イラストレーションとアートの棲み分けについて、どのように考えていますか?

西山:ぼくが仕事で描く「イラストレーション」は、グラフィックデザインの中で情報を伝えるための「図像」の役割を担っています。クライアントがいて、メディアがあって成立する仕事です。一方で個展で描く作品は、自分の興味がある対象を通して表現を探る場だと捉えています。ちなみにぼくは、「アート」というより「絵画」と呼んでいます。日常の中の、誰もがやっている行為や知っている瞬間を、絵を通して再解釈させたい。すると、振り返ったときに日常がちょっと違って見える。そういうギャップを探っています。クライアントワークと自分の制作は行ったり来たりで、それぞれから得た新しい知見を制作に反映させたりしています。

ーどちらもコミュニケーションをするための余地を残していますよね。鑑賞者に委ねる部分を残しているというか。そこに〈Y〉との共通点を感じます。

西山:そうかもしれません。ぼくも考える余地を残すようにしてますね。その「余白」の考え方は、〈Y〉の服にも通じる部分だと思いますね。

ーご自身の活動に関して、今後の目標はありますか?

西山:最近は自分の作品をプロダクトに落とし込まないか? という相談もあるんです。ファブリックとか、ラグ、あるいはクッションとかそういうものですね。今後はそうしたプロダクト制作にもチャレンジしたいし、自分の作品集もつくりたいと思ってます。

ープロダクトづくりは楽しそうな反面、すごく大変そうでもありますね。

西山:たとえば生地の場合は織り目とかも気にしなくてはならないので、そのニュアンスをいかに利用して楽しめるかが大事なのかなって考えてますね。普段の制作とは異なる制約が設けられるし、それが実際の生活空間でどう馴染むかを意識しなければならない。だけど、きっとその過程でおもしろいアイデアが得られると思ってます。

田口:個展の予定とかはあるんですか?

西山:まだ先のことではあるのですが、開催する予定です。いつも日常について描いているんですが、表現は同じでも、都度アプローチを変えているんです。普段生活をする中で、経験を通して考え方や感じ方に変化が生まれます。同じ事象でも、それを眺める観点によって見せ方が変わる。そうやって対象への新しい視点、新しい表情を模索していき、自分の表現を深めていければと思います。