A DAY WITH Y
Vol.4 Alex
モデル・フードコーディネーター
すっと手を伸ばしたとき、そこにある服。
なんてことない“普通の服”だけど、
なぜかいつも着てしまう。
〈Y〉が提案するのは、そんな服です。
日常にそっと寄り添いながら、
そのひとの個性と結びつく。
じゃあ、このブランドの服をまとうのは
どんなひとなのか?
デザイナー・田口令子と、
アドバイザー・金子恵治氏が、
〈Y〉を着るひとのもとを訪ねます。
じゃあ、このブランドの服をまとうのはどんなひとなのか?
デザイナー・田口令子と、アドバイザー・金子恵治氏が、
〈Y〉を着るひとのもとを訪ねます。

食もファッションも、心地よさと
幸せを感じられる必要がある。
ーアレクサンドラさんが食に対するこだわりを持ったのは、いつ頃からなんですか?
アレクサンドラ:私はポーランドで生まれ、その後メキシコやインドでも生活をしていました。食に対する興味を持ったのは、母の存在が大きいですね。私たちが口にする食事をつくるとき、どんな食材を用い、どういった調味料を使用するのか、そうしたことを常に考えながら料理をしていました。
ーある意味では小さな頃から英才教育を受けていたわけですね。
アレクサンドラ:そうですね。私はロンドンの大学で法律を学んでいましたが、正直な話をすると、イギリスの料理はあまり口に合わなくて…。外食をするにしても学生でお金がないし、だからといってファストフードばかり食べるわけにもいかない。だから自分で料理をするようになったんです。
大学を卒業したあとはパリに移住して、モデルとして本格的に活動をしていました。パリにはナチュラルフード、ナチュラルワインが豊富にあって、そうした食材を使いながら料理を楽しんでいたんです。いろんな撮影現場でモデルの仲間たちと出会うんだけど、みんなを家に招待してホームパーティのように料理を振る舞っていました。私の料理を食べるとアットホームな気分になると言ってくれて、それが私自身にも心地よさをもたらしてくれましたね。
ーナチュラルな食材を使うのがこだわりですか?
アレクサンドラ:そうですね。その食材が誰の手によって、どのように作られているか知ること。そしてそれをどうやって調理すれば美味しくなるか考えること。それを大事にしています。
田口:それは私たちの服作りにも同じことが言えますね。
アレクサンドラ:食もファッションも、心地よさと幸せを感じられる必要があると私は思ってます。
田口:モデルになったのは、どんなきっかけがで?
アレクサンドラ:経済的な自立を目指すためですね。ロンドンで法律を勉強しているときはソムリエとしてアルバイトもしていましたが、すごく収入が低かったんです。15歳くらいの頃から「モデルをやらないか?」って周りには声をかけられていたけど、あまり乗り気になれず断っていたんです。だけど、父の説得もあってエージェントと契約を結ぶことにしました。父はミュージシャンで、母はフォトグラファーとして活動をしていました。だからそうした表舞台の世界とは近い環境に居て、「悪いところじゃない」と教えてくれたんです。
契約を結んだエージェントもすごくいいところで、初めての撮影は『VOGUE』のポルトガル版でした。その後はイタリアを代表するメゾンブランドのハウスモデルとしても仕事をして、経済的にも安定することができたし、それによって気持ちとしても独立したことを実感しました。モデルの仕事を通してすごくいい仲間たちに巡り会えたのも、私にとってはすごくプラスになりましたね。


ーいまは日本でモデルとして活躍する一方、フードコーディネーターとしても活動されているんですよね。
アレクサンドラ:いくつかのプロジェクトに参加しています。子どもたちと一緒に料理をつくるクラスに参加したり、アートギャラリーで行われるエキシビジョンでは、展示される作品に合わせた料理のケータリングをおこなったり。あとは陶芸家やワイナリーと一緒にやっているプロジェクトもあって、そこでは陶芸作品に使われる土でつくられたワインや食材を用いて料理をサーブしています。どれもただ食べるだけではなくて、食の体験を通して疑問や知識が生まれるような会にしたいと思っています。
ーいちばん好きな食べ物はなんですか?
アレクサンドラ:塩がまず好きなのと、スープとシチューも好きですね。カラダの内側からハグされるような感覚になります。あとは白身魚や豆類、発酵食品も大好きです。日本食では蕎麦がベスト。ワサビはちょっと苦手だけど(笑)。あとは生牡蠣も大好物ですね。
ー塩っていうのがユニークですね(笑)。
アレクサンドラ:塩ってすごいんですよ。同じ塩でも国や地域によって特徴が全然違う。私はすごくギークなので、興味が生まれるとどんどん深掘りしていっちゃうんです。日本でも47都道府県で全部違う塩が取れるんです。そんな国はなかなかなくて、それがすごくおもしろい。スモークされた塩があったり、粒が大きくてクランチな食感の塩もあったりして、それをどう料理で生かすかを考えるのが楽しい。本当にシンプルなおにぎりも、ちょっといい塩をかけるだけで見違えるように美味しくなります。だからいつも私は塩を持ち歩いているんです。
田口:私もすごく塩が好きで、ピラミッドの形をしたイギリスの塩を家に置いています。ピリッと辛い味のする塩なんですよ。東京にいいお店があって、そこをあとで教えたい(笑)。
アレクサンドラ:私も黒くてスペシャルな塩を知っているんだけど、それをあとで教えますね。わたしたち塩友達ですね(笑)。
〈Y〉の服はまっすぐな感じがして、
1枚だけでなんとなく成立する。
ー食に対するこだわりがある一方で、着るものに対するこだわりはありますか?
アレクサンドラ:服を着たときに、自分がどんなフィーリングになるかを大切にしています。しっかりとしたクオリティであるのは大前提だけど、服がもたらすエネルギーのようなものが大事。デニムを穿けば強くてタフな気持ちになるし、繊細できれいな服を着れば、女性らしくソフトな気持ちになれます。その服を着て自分が何を感じるかっていうのが本当に重要だと思う。
田口:〈Y〉の服はどうですか?
アレクサンドラ:すごく心地がいいです。そしてそれが確かであることを感じます。ただ単にクオリティがいい服はたくさんあるけれど、それがしっかりと確かなこだわりを持って作られていると感じる服は多くありません。カジュアルなんだけど品があって、私はすごく好きですね。日常的でシンプルなデザインだけど、自分の意志でそれを手に取れるというか、「これを着たい」っていう気持ちにさせてくれる服だと思いますね。
ーどんなところにそうしたこだわりを感じますか?
アレクサンドラ:まずこのスエットは着ていて心地がいいし、暖かいんです。暖かそうに見えて暖かくないものってたくさんあるけど、これはそんなことない。あとはカラーもいいですね。とてもエレガントなネイビーだと思う。そしてサイズ感やシェイプも素晴らしい。大きすぎず小さすぎないサイズ感で、自分のカラダが美しく見えるんです。
金子:その言葉が聞きたかったですね(笑)。
田口:〈Y〉はコロナ禍ではじまったけど、ずっと家の中にいて、部屋着でいるのはイヤだし、かといって外に出かけるような服を着てリラックスできないのもイヤっていう人が結構多かったと思うんです。そういうときに着られる便利な服、つまりベストワンではないというところに着眼点があって、不思議と手に取りたくなる服を目指していたので、いまの言葉はすごくうれしかったですね。
アレクサンドラ:やりすぎてないところが好きですね。〈Y〉の服はまっすぐな感じがして、着飾るというよりも、1枚着るだけでなんとなく成立するところに魅力を感じます。いい意味ですごくイージーなんです。
田口:そのクルーネックスエットのイージーなポイントは、ネックがちょっと詰まってて、中のTシャツが見えないようにしているところにあります。
アレクサンドラ:いろんなディテールやこだわりの集積によって、このスエットができているということですよね。
ー素材の部分でもオーガニックコットンを使用したり、リサイクル系の素材を多用しているのもポイントで、そうした素材の使い方は食とも関連するんじゃないかと思います。
アレクサンドラ:そうですね。これだけたくさんの選択肢がある中で、なにを選ぶかって本当に大事だし、そこにこだわりを持つことがなにより重要なことだと思います。地球で生活をする上で、私は環境に悪影響を与えるものは選びたくない。どういう意志で選択をするかというのは、本当に大切なことだと思います。
ーアパレル業界でもサステナブルという言葉が使われるようになり、はじめのほうは良くも悪くもそれがトレンドとして扱われていました。それが当たり前になれば、みんなの意識もどんどん変わっていくような気がします。
アレクサンドラ:単純に“長く使うこと”がキーワードになると思います。環境に対する意識の向け方が大切だし、時間をかけてつくっているかどうかも重要です。あとは素材に対しても知識が必要ですよね。コットンひとつを取ってみても、まずはそれがどういうコットンなのかを理解しなければ選ぶことができない。もちろん〈Y〉ではいい素材を使っていると思うけれど、それがどうしていい素材なのかを知っていないと魅力につなげることができないですよね。
それは私がつくる料理も一緒で、どういう食材を選ぶのかは、知識によって答えが導かれます。そうして選んだ素材がよければ、シンプルな調理方法も美味しい料理ができあがる。そうしたアプローチをしていれば、食もファッションも、時間と気持ちが込められます。生まれたものがスペシャルに感じられるし、気持ちが込められた料理がテーブルに並ぶと、みんなが幸せになるし、ゆっくり味わおうと思うはずです。
金子:素晴らしい考え方ですね。
ーアレクサンドラさんが使う調理道具も同じ考え方でセレクトしているんですか?
アレクサンドラ:そうですね。目的がクリアで、真面目につくられているかどうかを大事にしています。つくっている人が誰で、どのようにして生まれているか。それが見えることが重要で、それが分かればきっと特別なものになるはずなので。


子どもたちと一緒にいると、
細胞が開花する。
田口:アレクサンドラさんはポーランドに生まれて、メキシコ、インド、イギリス、フランスと渡って、いまは日本に住んでいますよね。いろんな国や地域で生活をしてきた中で、それがご自身に与える影響ってありますか?
アレクサンドラ:物事の捉え方がすごく繊細で細かくなったように思います。あとはオープンハートにもなったし、なにより素直になれたように思います。どこに行っても私は私だし、そう思えることによって安心していられる。そうしたブレない信念のようなものが養われましたね。
ーこれまでに生活をしてきた国や地域の中で、いちばんフィットしたのはどこですか?
アレクサンドラ:日本ですね。それもいろんな場所に住んだから分かったことです。ポーランドと日本だけだったら、きっとこの国の魅力を充分に理解できなかったと思う。私のいい習慣をサポートしてくれるのが日本で、この国に住み続けることによって自分の知識や経験を活かして還元ができるとも感じます。日本にいてネガティブになることはないし、自分を変えずにいられる。私が私らしくいられるスペースがここにはあるんです。
田口:国によって文化が変われば環境も変わって、その中で自分自身の根幹がしっかりとブレずにいられるのは本当にすごいと思う。
アレクサンドラ:私は学ぶことが好きだし、生きる上で大切にしていることでもあるんです。日本はそうした環境がすごく整っていて、チープなものから上質なものまでさまざまなものが揃っているから、いろんなことを深掘りしやすいんですよ。それは私の学び方とすごくフィットするんです。研究ができるから。
ーこれからの目標はありますか?
アレクサンドラ:子どもを産んで、その子の親になりたいです。子どもたちと一緒にいると、細胞が開花するんですよ。自分のスペースがもっと広がる感覚。子どもを見守ったり、ケアするっていうことをしたいし、自分の見ている景色を一緒に共有したいですね。
ーアレクサンドラさんがお母さんから学んだように、その教えを伝えたいっていう想いもそこには含まれますか?
アレクサンドラ:そうですね。私の母も同じようにいろんなことを教えてくれたし、見せてくれました。私たちに対して探究心が生まれるような育て方をしてくれて、また明日がやって来るのが毎日楽しみでした。母も親になっていろんなものが得られたって言っていて、私も親になることで、どんな景色が見られるんだろうって想像していますね。
