A DAY WITH Y

Vol.11 石黒晴輝

フリーランスディレクター

すっと手を伸ばしたとき、そこにある服。
なんてことない“普通の服”だけど、
なぜかいつも着てしまう。

〈Y〉が提案するのは、そんな服です。
日常にそっと寄り添いながら、
そのひとの個性と結びつく。

じゃあ、このブランドの服をまとうのは
どんなひとなのか?

デザイナー・田口令子と、
アドバイザー・金子恵治氏が、
〈Y〉を着るひとのもとを訪ねます。

じゃあ、このブランドの服をまとうのはどんなひとなのか?
デザイナー・田口令子と、アドバイザー・金子恵治氏が、
〈Y〉を着るひとのもとを訪ねます。

個性を自分で見つけるような作業。

ー石黒さんは、金子さんがバイヤーを務めていたお店で働いていたんですよね。

石黒:新卒で入社した会社で、そのお店に配属になりました。実は金子さんとは入社前にお会いしているんです。

金子:たしか名古屋の古着屋だったよね。当時ぼくが在籍していたお店が名古屋でポップアップをやったんですよ。合間を縫って古着を掘りに行ったら、ぼくをチラチラ見てくる青年がいるなと思って(笑)。

石黒:ぼくはそのポップアップに行く予定だったんですが、友達とその前に古着屋に寄ろうってなって。

田口:すごい偶然ですね。石黒さんが直接ポップアップに行ってたら、もしかしたら金子さんと入れ違いになってたかもしれない。

金子:たしかにそうですね。そのときにはじめて話をして、なんとなく印象に残ってたんですよ。だけど、ファッションはいまとは全然違くて、もっと正統派のおしゃれというか、ストレートな感じだったよね。

石黒:古着が好きでしたね。ヴィンテージを掘ってました。

ー実際に金子さんのいるお店で働いて、どうでしたか?

石黒:勝手にプレッシャーを感じてました。働いている人がみんなおしゃれだし、その中に未経験の新人が入っていくようなもんなので。何を着たらいいんだろう? って、毎朝悩んでましたよ。「かっこよければなんでもいい」って言われるんですけど、「かっこいいって、なに?」みたいな。

金子:みんな言うこと違うし、正解がないんですよ。アメリカも、ヨーロッパも、古着もあってオールジャンルだったから。自分なりの文脈やスタイルみたいなものがないと、どこから手をつけていいかわからないのは当然だと思います。

石黒:ぼくにはまだその文脈がなかったから、本当にどうしていいかわからなかったですね(笑)。

ーそれを働きながら見つけていったわけですよね。

石黒:いろんなスタッフがいて、その中にない個性を自分で見つけるような作業でした。年齢もいちばん若かったし、だったら若い人が好きそうな服を着ようとか。そうすれば、自分と年齢が近いお客さんとも仲良くなれるじゃないですか。とにかく他のスタッフと被らないように、その中で自分なりのキャラクターを構築していきましたね。

ーその作業を通して文脈が見つかっていくわけですね。

金子:そうやって生まれたのが、いまの晴輝のスタイルってことだよね。

普通の服でキャラが出せたら、すごくおもしろい。

田口:石黒さんのスタイルって、色使いがポップだし、着こなしもどこかユーモアを感じますよね。

石黒:基本的にへそ曲がりなんですよね、天邪鬼というか。「こうしなさい」って言われて、その通りにするのがイヤなんです。ぼくはずっと野球部だったんですけど、練習以外のときはバッシュを履いていたし、屋内トレーニングのときはサッカー用のトレーニングシューズを履くような少年だったんですよ。もちろんグラウンドに出るときは野球用のスパイクを履いていたんですけど。

ーステレオタイプになるのがイヤだったんですね。

石黒:野球用のトレーニングシューズも、サッカー用のトレーニングシューズも、ほとんど機能は変わらない。本質はトレーニングをすることにあるのに、どうしてサッカー用じゃダメなの? みたいな気持ちがありましたね。

金子:たしかに、それはそうかもね。

石黒:そういう皮肉っぽいことが好きなのかもですね。でも、ちゃんと本質を捉えているつもりなんです。自分がディレクターを務めるブランドも、そういう気持ちでやってますね。

ー会社を辞めて、いまはフリーランスのディレクターとして活躍されてますよね。

石黒:いまは自分のブランドをやりつつ、仲間と一緒にアトリエを借りて、そこでアポイント制の古着屋もやっています。

田口:どういう古着が好きなんですか?

石黒:スタンダードなものが好きですね。普通のヴィンテージのスウェットとか、チノパンとか。そういう服って、いかようにも着こなせるじゃないですか。ぼくが扱っているのも、そういう古着なんです。オーダーメイドのイタリア製のシャツとか、スコットランド製のカシミアのセーターとか。本当に普遍的で、市場価値にあまり影響されないものだと思うんです。

ー誰が着てもいいし、そのひとの個性が尊重されるような服ですよね。

石黒:そう思います。服によってキャラが決められるのではなくて、普通の服でキャラが出せたら、すごくおもしろいと思うんです。

田口:石黒さん自身に、キャラクターがありますよね。

石黒:前職で鍛えられたんだと思います(笑)。

金子:自分なりの文脈というか、スタイルを見つけたのかもね。

田口:私がはじめて石黒さんに会ったとき、蛍光イエローのニットキャップを被って、ネイビーのワークジャケットを羽織っていたんです。そのときに金子さんが「ルーツがないような服を上手に着てるね」って話をしてて。そのときの印象が強く残っているんですよ。スタイルがもうできあがっていたんですね。

ー“チープシック”みたいなことですか?

田口:そう! まさにそれです!

石黒:金子さんと一緒にチープシックを読んで勉強したんですよ。高い服とか、良いヴィンテージを着ればかっこよくなれるのかもしれないけど、それって当たり前じゃないですか。だけど普通の服でかっこよく見えたら、それはその人自身が魅力的だということですよね。

田口:いたって普通の服を組み合わせておしゃれな人って、趣味がいいってなりますよね。

スタイリングの接点をつくりやすい服。

ー〈Y〉の服をご覧になられて、どんなことを感じましたか?

石黒:スタンダードな服が多くて、自分のワードローブに合わせやすいなぁと思いました。強い服でも、柔らかく着られるというか。

ーそれはどういうことですか?

石黒:デザイナーズブランドのように個が立っているわけでもなく、ワークブランドのようにアノニマスでもない。その中間にあるようなイメージで、文脈をつなぎやすい服だなって思うんです。

田口:〈Y〉ってコロナ禍にスタートしたブランドなんですよ。あの頃って、家でも着られるし、外にも着ていける服が増えたけど、そこに焦点が絞られていて、私としてはちょっと物足りなかった。なんてことのない普通の服なんだけど、ついつい手に取ってしまう、ベストクオリティの服作りを〈Y〉ではしたかったんです。

石黒:どこにでも着ていけるけど、テンションが上がらない服が多かったと思います。ぼくは装飾的な服をあまり着なくて、そうなると、やっぱり古着かワークウェアになってしまうんです。その隙間を縫う服ってセレクトショップのオリジナルとかになるんでしょうけど、〈Y〉はそれとも違いますよね。いい意味で普通なんだけど、細かな部分がきちんと整えられている。強い部分が柔らかくなっているっていうのは、つまりそういう気の利かし方なのかなって思います。

金子:実際に着てみてどうだった?

石黒:すごく着やすいし、合わせやすいですね。ヴィンテージやワークウェアがベースになっているから、取り入れやすいというか。全身古着の中に一点だけ〈Y〉の服を合わせても成立してしまうし、かえって直球なスタイリングを中和してくれる。スタイリングの接点をつくりやすい服だなって。

ーとくにお気に入りのアイテムはありますか?

石黒:ラガーシャツですね。スポーティーな感じが抜けていて、でもポロシャツとも違うっていうか。変に上品すぎない感じがいいなぁって。

田口:一般的なラガーシャツは襟も厚くて硬い生地を使いますが、これは柔らかな生地を使っています。シルエット自体はオーソドックスですが、生地が違うだけで、全体の雰囲気は大きく変わるんです。

石黒:ベーシックな服に合いますね。プレッピーまではいかないけど、普通のアメリカンカジュアルに合わせたいです。

ー石黒さんが思うファッションの楽しさって、どんなところにありますか?

石黒:ファッションって既にいろんな基準が生まれていますよね。それはある意味、“正解”のようなものだと思うんです。ぼくはそれを別の角度から眺めて、ユニークな捉え方をしたい。価値観の転換というと大袈裟かもしれませんが、その視点の置き方に個性が宿ると思うんですよ。

田口:軸足を半分ズラすみたいな。

石黒:そうですね。ファッションのセオリーで、革靴とベルトの色を合わせるってあるじゃないですか。そこを、色だけ合わせてレザーのスニーカーではずす、みたいなことはよくあると思うんですけど、ぼくはそこにレザーのサンダルを合わせたいんです。

田口:たしかに、単純な“ハズし”とは、またちょっと違うアプローチですね。石黒さんっぽいかも。

ー今後の目標はありますか?

石黒:小さな頃から「いつか自分のお店を持ちたい」という思いがあって、それはいまも変わりません。野球少年だったんですが、プレーよりも野球道具に惹かれていて、休日になると専門店に通っては、お店の人と話したりカタログを集めたりしていました。店では店主とお客さんが高校野球を見ながら道具の話をしていて、あの空気感への憧れがいまも残っているんです。

田口:いまは野球がファッションになったということですか?

石黒:そうですね。でも東京ではなくて、もっと田舎でやりたいです。もう少し生活感のある土地でやれたらいいなぁと思ってて。

田口:スローライフ的な?

石黒:スローライフ、したいですね(笑)。好きなものについて延々と語り合えるようなお店にしたいので、だったらイチからコミュニティをつくったほうが近道なんじゃないかなと思っているんです。いまはまだ準備段階ですが、時間をかけてゆっくりやっていきたいですね。